今回もユーゴスラビアネタです。ユーゴスラビアの専門書を読むと「旧ユーゴスラビア」「新ユーゴスラビア」「共和国」「自治州」という単語が出てきます。なぜ「旧」と「新」があるのでしょうか。
なぜ、コソボは「自治州」で「共和国」には昇格できなかったのでしょうか。今回はそのあたりを解説します。
① 「旧ユーゴスラビア」と「新ユーゴスラビア」
「旧ユーゴスラビア」は第二次世界大戦後、チトーによって建国された国を指します。つまり、6共和国(スロベニア、クロアチア、セルビア、ボスニア・ヘルツェゴビナ、マケドニア、モンテネグロ)と2自治州(ヴォイヴォディナ、コソボ)で構成される方です。
ただし、正式な国名は1回だけ変わっています。変遷は以下の通りです。
1946年~1962年:ユーゴスラビア連邦人民共和国
1963年~:ユーゴスラビア社会主義連邦共和国
普段の生活では全く問題ありませんが、論文を書く際は十分にご注意ください。
「新ユーゴスラビア」は旧ユーゴスラビアの各共和国が独立していく中で、最後に残ったセルビア共和国とモンテネグロ共和国によって構成された連邦国家です。
建国は1992年、正式国名は「ユーゴスラビア連邦共和国」です。「新ユーゴ」は「旧ユーゴ」の継承国家!と宣言していましたが、紛争の介入等により、国際社会では認められていませんでした。そのため、アメリカでは「新ユーゴ」のことを「セルビア」と呼ばれていました。
ちなみに、日本も「新ユーゴ」を承認したのは1997年のことです。「新ユーゴ」は2003年に「セルビア・モンテネグロ」に改名され、「ユーゴスラビア」の名称がここで消滅したのです。
② なぜ「自治州」は「共和国」になれないのか
さて、旧ユーゴは6共和国と2自治州で構成される、と書きました。なぜ「自治州」は「共和国」になれないのでしょうか。「共和国」になるには条件があるのでしょうか。ここで、それぞれの「共和国」と「自治州」の主要民族名を書き出してみましょう。
スロベニア:スロベニア人
クロアチア:クロアチア人
ボスニア・ヘルツェゴビナ:ボスニア人
セルビア:セルビア人
マケドニア :マケドニア人
モンテネグロ :モンテネグロ人
ヴォイヴォディナ:ハンガリー人(13% 旧ユーゴ時代はもう少し多かった)
コソボ:アルバニア人
いかがでしょうか。何か気づきましたか。実は自治州の主要民族は別に主権国家を持っているのです。つまり、ハンガリー人には「ハンガリー共和国」がありますし、アルバニア人には「アルバニア共和国」がありますね。
一方、共和国には別に主権国家を持っていません。これが「共和国」と「自治州」の差異なのです。単純に書くならば、別に主権国家を持っている民族はいくらその地域に占める割合が高くても「共和国」にはなれませんでした。
ただし「1974年憲法」の制定により「共和国」と「自治州」は事実上、同じ地位になったわけですが。